The Progressive 2017年7月11日
遺伝子組み換え作物のための広告塔:
バイオテク産業はどの様にして友好的なメディアを育成し、
批判を抑えてきたか

ポール D. サッカー
情報源:The Progressive, July 11, 2017
Flacking for GMOs: How the Biotech Industry
Cultivates Positive Media-and Discourages Criticism, by Paul D. Thacker
http://progressive.org/magazine/how-the-biotech-industry-cultivates-positive-media/

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会
初期掲載日:2017年7月19日
全面更新日:2017年7月24日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/kaigai/kaigai_17/
170711_Progressive_Flacking_for_GMOs.html

 2016年、シカゴにある公共放送(NPR)局、WBEZ のモニカ・エンは、農薬の巨大会社モンサントがイリノイ大学の教授に、遺伝子組み換え作物(GMOs)についての著作、講演、及び旅費のために、さらには連邦政府の更なる GMO 規制をやめさせるためのロビーイングのために密かに金を支払っていたという批判記事を発表した。困難な長年にわたるこのプロジェクトで、エンはモンサントがイリノイ大学教授ブルース・シャッシーに金を払ったこと、及び、彼はその金を記録が公開されない大学の基金に預けるようモンサントに助言していたことを証明する文書を暴露した。

 ”これは大きな話題になると私は思った”と、エンは言う。

 彼女が予想しなかったことは、強い反発であった。大学は彼女をジャーナリストではなく、活動家であると非難し、彼女はその記事を標的にするツイッター荒らしにより、しつこく追い回され、彼女の信用を落とすためのキャンペーンに見舞われた。

 ”私は、シカゴで30年以上プロのジャーナリストとして働いている”とエンは言う。私は政府組織、非営利組織、私企業の中の怪しい行動を明らかにしてきた。しかし私は、問題を報道するジャーナリストを個人的に攻撃しようとする意図を持ったそのような組織をかつて見たことがない”。

 エンの経験は、批判を封殺し、報告者を脱線させ、産業側のイメージを損なう情報を抑え込むために巨大タバコ産業が初めて編み出した戦略である。

 この数か月、メディアは、ジャーナリズムが企業に後援されるという気がかりな傾向に関して報道している。ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル(BMJ)は、肥満を報道する記者に影響を及ぼすために、コロラド大学で開催されたジャーナリズム会議に資金を密かに提供するコカ・コーラの複数年にわたるキャンペーンを暴露した(訳注1)。監視団体ヘルス・ニュース・レビュー(Health News Review)は、カンサス大学の二人のジャーナリズム学教授が、米・上院財政委員会がオピオド製造者らとの結託の疑いで調査した団体 Center for Practical Bioethics (現実的な生体倫理センター)から資金的支援を一部受けて実施したある調査で、1,100 人以上の医療介護の記者にオピオイド(訳注2)に関する彼らの見解を尋ねた。

 バイオテク産業は、GMOs と、モンサントの除草剤グリホサートを含んで遺伝子組み換え作物に使用される化学物質を取り巻く議論を懐柔することに、特に力を入れている。世界で最も広く使用されているグリホサートは GMO トウモロコシと大豆の栽培を成功させるために重要である。最近のある調査によれば、農民によるその化学物質の使用は1996年以来15倍に跳ね上がっている。世界保健機関(WHO)下の国際がん研究期間(IARC)はグリホサートをヒトに対する発がん性がおそらくある (probably carcinogenic to humans)と分類している(訳注3)。

 本年1月に、(カリフォルニア州最高裁判所の)判事はモンサントの異議を却下し、カリフォルニア州はよく売れているグリホサートベースの除草剤ラウンドアップに発がん性警告のラベルを添付することになった(訳注4)。環境保護庁(EPA)の 監察総監は、元EPA高官がモンサントと結託したかどうか調査中であると発表したばかりである。訴訟とロビーイストの雇用に加えて、化学産業は、グリホサートと GMOs の批判記事を書くジャーナリストの信用を落とすために産業寄りの科学者と GMO 支持ウェブサイトを利用している。

 ニューヨークタイムスの調査報道記者ダニー・ハキムは、農薬産業を批判する記事を書いたために、最近数か月、オンライン上で嫌がらせを受けている。ハキムの名前をグーグルで検索すると彼のニューヨークタイムズでの17年間の経歴−その間にピューリッツァー賞を受賞した−について、少しばかりの記述を見つけるであろう。しかしあなたは、全米科学健康評議会(ACSH, American Council on Science and Health)のウェブサイトで(Glyphosate: NYT's Danny Hakim Is Lying To You グリホサート:NYTのダニー・ハキムはあなたに嘘をついている)やジェネティック・リテラシー・プロジェクト(Genetic Literacy Project)のウェブサイトで(Why Danny Hakim’s New York Times GMO expose misleads ダニー・ハキムのニューヨークタイムズ GMO 暴露記事は、なぜ誤解を生じさせるか)などの彼の報告を批判する記事を見つけるであろう。

 ” GMO 論争を再構成し、嫌がらせと中傷を通じてジャーナリストを脅すための産業側の PR キャンペーンは、私の見解では、非常にうまくいっている”と、食品関連の著者でジャーナリズム学教授マイケル・ポランは述べている。”私は、これは一部には、私の同僚科学記者の多くが政策及び広報活動に純朴であることに起因すると思う”。

 産業側が GMOs についての問いを貶めるために採用するひとつの戦略は、食品の安全性に議論を狭めることである。GMO 支持の科学者と記者は、専門家と批判者は一袋のコーンチップを食べることと、一ビンのヒ素を飲むことは同じであると考える輩であるとあざける。しかし、GMOs の懸念は、それらの安全性、農業と生態系への影響、そしてグリホサートの毒性はどの様に首尾よくテストされたのかということを含んで広い範囲なので、食品の安全性だけに議論を狭めることは攻め所を間違えている。

 とりわけ、産業は遺伝子組み換えにより大量の農薬を必要とする作物を作り出すべきではないとする正当な議論がある。産業とその同盟は、GMO 批判を気候変動否定やワクチン安全否定に例えることにより、そのような問いを貶めようとしている。

 バイオテク産業のメディア戦略のヒントは、グリホサートはがんを引き起こすと主張して、モンサントを訴える裁判から漏れ出した。いくつかの裁判資料が、”何も行かせるな(Let Nothing Go)”と呼ばれるモンサントのソーシャルメディア戦略を記述する”モンサントの内部文書を参照しており、そのプロジェクトでは、同産業と何も関係がなさそうに見える人々が、モンサント、 GMOs 、及び農薬に関する否定的なソーシャルメディア投稿に速やかに反応している。

 ある裁判の弁護士たちは、判事にその文書はモンサントが、科学者らに恥をかかせ、モンサントと他の化学物物質製造者に役立つ情報を強調するために、金をジェネティック・リテラシー・プロジェクト及び全米科学健康評議会(ACSH)に注ぎ込んでいることを示していると伝えた。

 産業側はまた、 GMOs とグリホサートの毒性についての議論を組み立てることについて科学者やジャーナリストを訓練するための一連の会議に密かに金を提供した。最も多くの人々が出席した会議は2014年にフロリダ大学で、そして 2015年にカリフォルニア大学デービス校(UC-Davis)で開催された会議である。eメールの中で主催者はこれらの会議をバイオテク能力養成所(biotech literacy bootcamps)と呼び、ジャーナリストらは”パートナー”と記述された。主催者は、フロリダ大学園芸科学部門議長ケビン・フォルタ、ジェネティック・リテラシー・プロジェクトのジョン・エンティン、イリノイ大学のブルース・シャッシー、及びコンサルタントのカミ・ライアンを含めた

 産業界の影響から”独立”していると主張する一方で、フォルタはニューヨークタイムズの記事の中で GMOs を促進するためにモンサントから金を得ていたことを暴露された。ニューヨークタイムズの記事が彼のモンサントとの関係を発表する直前、フォルタの大学はこれらの非公開の支払いを慈善事業に寄付する意図があると宣言した。

 エンティンは、今は存在しない STATS と呼ばれる団体に属していたが、その団体は化学物質について肯定的なメッセージを発信し、タバコ会社のためのコミュニケーション・サポートを提供していた。昨年、エンティンは、コロンビア大学ジャーナリズム校の教授らをエクソン・モービルの気候変動否定への関与についての彼らの調査攻撃する記事を書いた。数年前、ニューヨーカーのある記事は、農薬に対して批判的研究をするカリフォルニア大学バークレー校のある教授(訳注5)に対する産業側の非難にエンティンが明らかに関与したことを報告した。

 モンサントに協力して金を受け取ったこと以外に、シャッシーは、モンサントのある重役から示唆されて立ち上げたサイト、アカデミックス・レビュー(Academics Review)を運営している。重役は、”重要なことは、情報の信頼性を傷付けないようにするために、モンサントを表に出さないことである”と彼にメールした。

 最初の会議の計画を支援した後、カミ・ライアンはモンサントから仕事をもらった

 ”これらは嘆かわしい資料である”と、会議についての文書とメールをレビューした後、ハーバード大学科学史の教授ナオミ・オレスケスは述べている。オレスケスは、全米科学健康評議会(ACSH)の関与は、同評議会が化学物質と農薬の安全に関する科学を損なってきた長い歴史があるので、特に問題があると述べている。彼女は、”それは明らかに、 GMO 作物は有益であり、必要であり、ラベル表示を正当化するほどのリスクはないと、人々を説得することが意図されている”と、付け加えた。

   2013年における初期の議論の後に、エンティンはフォルタ、シャッシー、及びライアンにeメールを送り、その会議は、 GMO 食品に関して政治的な戦いが起きている重要な州で”戦略的に位置づけられた”人々を含めることが必要であると言及した。エンティンは一旦プログラムが理解されたなら、”私は、運営に参加することを望んでいる何人かのジャーナリストとメディア専門家を推薦する”と付け加えた

 あるジャーナリストが、2015年の UC-Davis 会議の背後に誰がいるのかと尋ねた時に、エンティンは、バイオテク会議は大学からの後援以外に、米国農務省、米国内務省、及び産業からのある支援を受けているアカデミックス・レビューからの後援を受けていると書いた。何人かの科学者らへのeメールの中で、シャッシーはまた、大学と米国連邦機関は、能力養成会議に資金を提供していたと主張し、講演者への謝礼は 2,500ドル(約29万円)であったと述べた。シャッシーは、”ジャーナリストは安上がりである”と付け加えた。

   しかしフロリダ大学と UC-Davis の両大学は、これらの会議への金銭的支援を否定した。国務省の報道担当官は、同省は2014年のフロリダ大学における会議に、単に講演者を出しただけであると述べた。再三の要求の数週間後、米国農務省の報道担当官は、その会議に対する同省の金銭的支援の証拠を見つけだすことができなかったと述べた。

 それでは金はどこから出たのか? それは入り組んだ金の流れである。

 エンティンによって署名された合意書は、 UC-Davis における能力養成会議は、米バイオテクノロジー産業協会(BIO)によって支払われる金を期待していた。連絡を取ってみると BIO はアカデミックス・レビューに、フロリダ大学での 2014年会議のために 175,000ドル(約2,000万円)、 UC-Davis での 2015年会議のために 165,000ドル(約1,90o万円)を与えたことを確認した。しかし、BIO は、その金は、それが運営するバイオテクノロジー情報協議会(CBI)という非営利団体を通じて循環していると付け加えた。実際に、 CBI の税務報告書は、2014年2015年の両方に、合計300,000ドル(約4,200万円)をアカデミックス・レビューに与えたことを確認した。そして、シャッシーが妻と共に運営しているアカデミックス・レビューの税務報告書は、同組織が 2015年の UC-Davis 会議に 160,000ドル(1,800万円)以上、出費していることを示していた。

 要するに、唯一追跡できる資金源はバイオテク産業であるということである。それでは、産業側はその金で何を買ったのか?

 UC-Davis での2015年会議のチラシは、元モンサントの広報担当官で、現在は GMOs を推進する PR 会社を運営するジェイ・バーンを含んで、12人以上の専門家をリストしている。専門家としてリストされている人の中には、バイオ産業を代表する法律会社で科学顧問及び専属のメディア評論家を務めるペンシルベニア州立大学教授ニーナ・フェドロフも含まれる。

  UC-Davis 会議の参加者で、”ジャーナリスト”としてリストされている人々中に、定期的に GM0 支持のプロパガンダを投稿しているウェブサイト Science 2.0 のハンク・キャンベルがいる。キャンベルは、現在、科学者の産業側との秘密の結びつきと潜在的な農薬の危険性を暴露する記者らを攻撃している全米科学健康評議会(ACSH)の代表である。

 会議の文書をレビューした後、ニューヨーク大学の栄養・食品研究、及び公衆健康の教授であるマリオン・ネスレは次の様に述べた。”もしジャーナリストが、誰かが支払ってくれる会議に出席するなら、初めから深く疑う必要がある”。彼女は、会議主催者はジャーナリストに対して GMOs の安全性を疑問に思う人は誰でも、”反科学的であり、気候変動否定者と同類である”と説得しようとしているように見えると付け加えた。

 ヘルス・ニュース・レビュー(HealthNewsReview)の出版者であり、ミネソタ大学公衆健康校の准教授であるゲイリー・シュバイツアーもまた懸念している。

 ”非常に多くのジャーナリストが、金銭的利害関係のある団体によって後援されている会議に参加しようとツルツルの坂を滑り降りて行く”と彼は述べた。”このようなやり方はジャーナリズムを「プレーしたいなら金をはらえ(pay-for-play)」という、もう一つの形に変える”。

 能力養成会議への資金調達と産業側から彼の組織への金銭的支援を問われて、エンティンは次の様に答えた。”申し訳ないが、私は、あなたのことを聞いたことがない。私は信用できる報告書作成の経歴がない活動家には答えない”。

 フォルタは、彼は会議が BIO によって金銭的に支援され、彼は業務時間外にその会議を組織したことを認めると述べた。”私の資金調達は常に、大学の方針にしたがって、全てを開示してきた”と、彼はつけ加えた。

 プログレッシブ(Progressive)(訳注: Wikipedia)への声明の中で、モンサントは同社が多数の組織と提携し、全米科学健康評議会(ACSH)がその支援パートナーである CBI を含んで多くの産業側組織に透明性のあるやり方で金銭的支援を提供していると書いた。

 シャッシーは、アカデミックス・レビュー及びバイオテク会議の金銭的支援についての質問に回答しなかった。しかし、彼は、”bias and harassment tactics(偏向と嫌がらせ戦術)”及び”multiple false and potentially libelous insinuations and claims (多数の誤りと潜在的に中傷的なほのめかしと主張)”の著者を非難する Progressive へのレター送付にあたり、エンティンとフォルタに加わった。

 ゲイリー・ラスキンは、食品産業の透明性に関して活動する非営利団体で、米国有機消費者協会(Organic Consumers Association)からある資金援助を受けている米国知る権利(U.S. Right to Know)の共同代表である。彼の団体が最初に産業側支援の公開記録を入手した。”多くの記者が非常に怯えており、農薬産業とその製品の健康と環境への影響を報告することを怖がっている”と彼は述べている。

 産業側は、公衆が理解を必要とする問題を提起することを非科学的であるとして公衆健康擁護者と記者を汚名に着せている。それが我々全ての懸念である。


訳注1:コカ・コーラ
訳注2:オピオイド
  • オピオイド - Wikipedia ・・・ケシから採取されるアルカロイドや、そこから合成された化合物、また体内に存在する内因性の化合物を指し、鎮痛、陶酔作用があり、また薬剤の高用量の摂取では昏睡、呼吸抑制を引き起こす・・・
訳注3:グリホサートの発がん性に関する議論
訳注4:カリフォルニア州 グリホサート
訳注5:タイロン・ヘイズ教授(カリフォルニア大学バークレー校)


化学物質問題市民研究会
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